先生

先生がいなくなってから、何ヶ月もたった。先生がいる世界で私は死にたかったのに。

先生がいない世界で誰が本の話を聞いてくれるの。

私は先生と話したくて頭が良くなりたかった、先生と同じ世界を見てみたかった、先生の視野に入ってみたかった少しでもいいから先生の視野に入りたかった。

それが叶わないと骨の髄まで知っていたけど、足掻いてみたかった死んだら先生の頭の片隅で私が生きられるのならあなたの糧になれるなら私は先生に見てほしかった。

先生の目は私を見ていなくて、医者はただ骨折を治すだけ、骨折した患者の人生自体に関与するわけではない。精神科医も同じ、精神病を治すだけ。患者の人生自体に関与しない。

私を見る目は私を見てるわけじゃなくてただレントゲン写真とMRI画像と血液の数値を見るみたいな目なのだ。

目線自体が違う、先生は私という人間は見てない。だからあなたの視界に入ってみたかった。

陽性転移は病気です。私は末期だ。

先生はきっととてもいい人がいるのでしょう、だから先生が持った患者で私が1番最初に死にたかった。あなたの1番になりたかった。それは命をかけられるくらい、先生のために死ねるくらい強い恋だった。恋だった、あれは恋です。だからそれに気付く前に死にたかった。

私は気付く前に自分のために死にたかった。

先生が私の自殺を止めたのに、もう先生がいないじゃないですか。どうやって生きろというの。

先生は私と話していて楽しいと言った、私はそれだけで十分だった。だから、死にたかった。

先生は私を医療の限界だと言った。だから、私は死にたかった。

先生はもういないじゃない。先生はもう私の世界にいないじゃない。

最後の手紙はすべての力を使って強がった。先生の前では強くありたかった。強がらないと本当に惨めで死んでしまうから。

私はあなたの死体を引きずってそれで呼吸をしているけど、それはとてつもなく重くてもう前へ進めない。

これ以上傷つく事なんてないんでしょう。だったらあなたの死体を重りにして首を吊りたい。頭が先生だけの世界で死にたい、これ以上私はあなたの死体を引きずれない。辛すぎる。とてもじゃないけど生きられない。

私が抱く先生への思いは恋とも認めてもらえない、陽性転移でしかない。それって残酷すぎませんか。

私が死のう思ったきっかけが先生で私の自殺を止めたのも先生でいまその先生がいない世界を生きてるの、もはや生きてない、死んでませんか、仮死状態で生きてる。それ生きてるって言えるのか私にはわかりません。

先生にこんな私の感情が知れたらきっと恐怖を与えてしまう、嫌われてしまう。だから見えないところでこの不毛な文章を吐き捨てておこう。

先生が1番好きな本だと言った、バルザックゴリオ爺さん、まだ一行も読んでません。先生がいないから、私は読む理由がないのです。

私はこうやってこの気持ちを誰にも言わず、このインターネットという場所に転がしておくことしかできない、気持ちの悪い人間だ。

私は今足掻いています。フロイトの転移分析を読んでマートン・M・ギルの転移分析をよんで神田橋條治の本もたくさん読んで、陽性転移について理解した、陽性転移はきっと病気です。なんて、すごく滑稽な言葉だと分かりました。私がしていた先生に対する言動は全て先生への拒絶でした。

話したい本の話まだ沢山あるのに、誰も聞いてくれる人がいない。私はあの時死んでおけばよかったと死ぬまで思うでしょう。

私はあの閉鎖病棟から見える外の景色がどの景色より好きだったし、外を眺めてる時に先生が私の視界に入るように手を目の前にふりふりしてくれてたのがとてもとても好きだった。

1度先生も同じ外を見て、天気が良いですねと一言言った場面が頭からこびりついてどうしても消えてくれない。

先生と最後の退院する時に指切りげんまんしたの私の人生で1番幸せでした。

最後の診察で、またどこかで会えますよって言ってくれたの本当に人生で会った最悪の嘘でした。

私は先生のことが好きでした。これからもきっと好きです。でもその先生は存在しない、私の理想を詰め込んだ妄想と化していることを理解しています。

好きになってしまってごめんなさい。

 

陽性転移はきっと病気です。